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【書評】大田ステファニー歓人「みどりいせき」ー「三島由紀夫賞げと!」いやいや、これは文句なしでおもしろい!読んでみるもんだ!


 先日、三島由紀夫賞を受賞したばかりだが、すばる文学賞を取った時に選考委員の金原ひとみさんが、私の中にある「小説」のイメージや定義を覆してくれた、とコメントしていて、自分の中で期待と不安が交錯していた。若者っぽい表現でついていけるのかと思いながら読み始めたのだけど「あれは春のべそ」で始まる1ページ目からよく分からない。いったい何の話?でも、少し頑張って読み進めていくうちにその文体にも慣れフツーに読めるようになり、物語自体も自分の中で動き出した。よしっ!

 春というのは主人公である桃瀬という高校生が小学生の時に野球でバッテリーを組んでいた女の子。で、このままだと不登校になりそうな桃瀬が春と再会する。これがすべての始まり。どこからともなく湧き出てきたようないろんな言葉と共に混沌の中を突き進んでいくうちに、桃瀬は春たちがやってるチョーヤバい世界へと巻き込まれていく。鳴海先輩とかグミ氏とかラメちとかがいるそのワールドは、なんだか知らないがみんな楽しそうで困っちゃう。ヤバそうではあるのだけど、そこには優しさに満ちた連帯がある。そのワールドを描くのに作者のこの文体はすごくぴったりなのだ。いいぞ。

 で、いつの間にか深入りしちゃったモモぴ(って呼ばれちゃってる)が捕まりそうになって逆上しちゃうところがすごくおかしい。新参である彼にみんなはとてもとてもやさしくて、ちゃんと謝ってくれるのだ。で、もう辞めるんだろうなぁ、と思ってるのに辞めないのはどうにも学校に馴染まなかった彼にはそこがけっこう居心地がいいからなのだろう。定石のような展開にならないのがなんともカッコいい。

 女子がたくさん登場し、春とのカンケーもあるのだがレンアイ要素がないのもいい。最後の方で活字の組みで遊んでる風も結構好き。ラストもなかなかだ。けっこう気分のアガる青春小説。諦めなくてよかった。この人、次も楽しみだぞ。
◆DATA  大田ステファニー歓人「みどりいせき」(集英社) 

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)