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【書評】シルヴィア・プラス「ベル・ジャー」ー現代に通じる時代の閉塞感の中でしだいに精神を病んでいく主人公エスター。その不安定な心と現実に対し抗っていく様子に強い共感が生まれる

 

 1963年に刊行され、英米で430万部以上を売り上げた世界的ベストセラーの20年ぶりの新訳。晶文社の「I am I am I am」という新しい海外文学シリーズの第一弾だ。川上未映子が絶賛していたので気になって読んでみた。

 1953年の夏、成績優秀で様々な受賞歴もある大学生のエスターはニューヨークの出版社のインターンの1人に選ばれる。NYでの暮らしは華やかなで、同じインターンの女性たちとの交流もあるのだが、彼女自身はいろいろなことがうまく運ばず、街や人にもなかなか馴染まず、いつの間にか「心の奥はしんとしていて空っぽ」になってしまっていた。自分の無能さを痛感したエスターは、男性との関係もうまくいかず、大学卒業後の展望さえない。作者の自伝的小説とも言われるこの物語、詩人としてピュリツアー賞も受賞しているシルヴィア・プラスの語りはとてもリアルで、しかも、詩的なイメージであふれている。

 夏を過ごすためボストンの実家に戻ったエスターは希望していたライティングコースにも合格せず、しだいしだいに精神を病んでいく。ここからの表現がなんだかすごい。エスターという女性の心の揺らぎ、その不安定な心と現実に対し抗っていく様子を作者は詩人らしい繊細なタッチで描いていく。それまでの人生を肯定できない絶望の思い!描かれた時代の閉塞感は現代に通じるものがあり、特に若い人には主人公に対する強い共感が生まれるだろう。タイトルの「ベル・ジャー」というのは鐘状のガラス器のことでまさにその中に閉じ込められてしまうような閉塞感を示している。作者シルヴィア・プラスはこの小説が出版された年に自ら命を絶っている。

◆DATA シルヴィア・プラス「ベル・ジャー」(晶文社) 

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)