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【書評】朝井リョウ「生殖記」ー勝手に考えていた下世話な話とは全然違っていた!意外すぎるディープな生と性の物語

 

 「正欲」で大きな話題を呼んだ朝井リョウ。その次の本が「生殖記」というタイトルだから、勝手に生と性の話じゃないかと思っていたら全然違っていて驚いた。いや生と性といえば生と性なのだけど、ベクトルが違う方向を向いている。ううううむ。

 生殖器に宿る生殖本能が語る一人称小説。普通の一人称はある意味神の視点でもあるわけだけど、これは神をも超越している。作者はこの人称を利用してテーマに対してかなり突っ込んで書いているような気がした。正と性と書いたが、語り手である「私」が宿っている尚成というヒトのオス個体は同性愛個体。「生殖記」は共同体の中でなんとか生き抜いていかなければならない同性愛個体の物語だったのだ。

 尚成は社会人になるまで「共同体にとって”しっくり”くるほうの自分を作り上げ」「周囲のオス個体への擬態」を繰り返しながら生きて来ている。今は家電メーカーの総務部勤務なのだが、彼には「共同体の拡大、発展、成長を担うだけのモチベーションが毛ほどもない」。大きなマットを皆で運んでいるのが会社だとすると「手は添えて、だけど力は込めず」というスタンスで日々をやり過ごしている。こういう表現が随所に出てきてそれだけでもおもしろい。

 共同体感覚などどうでもいい尚成、唯一社会人になってよかったのは擬態ではなく経済的自立が自らを救うことに気づいたことだ。「私」のモノローグ的な語りは結局、この共同体感覚の中で生きる同性愛個体の哀しさに終始している。サバイブの次が彼にはない。経済的自立の次がない哀しさ!物語は尚成の同期や後輩たちとの交流を交えながら進んでいくのだが、やはりこのモノローグ部分が強烈で、それは「正欲」同様に僕らに新しい視点を与えてくれる。いやぁ、いろいろスゴイよ。多様性をブームだと笑いとばし、生産性ってやつを手放せないヒトを嘲笑し語り続ける生殖本能!次のない人生の次、ささやかな次を見つけるラストがいい。

 「生殖記」「2025年本屋大賞」ノミネート・「キノベス!2025」第1位に選ばれています。 ◆DATA  朝井リョウ「生殖記」(小学館)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)