「正欲」「生殖記」と話題作を連発している朝井リョウの最新作。これもまた間違いなく2025年のマイベスト上位にランクインするであろう傑作だ。
ファンダムとファンダム経済がテーマだが、なんのことだかよく分からない。「アーティスト、アイドル、アニメなどを深く愛し熱狂的に応援するファンの集団とその文化」だとAIが教えてくれた。推し活などもそれに入れて良いのか、ちょっと違うのか。いずれにしてもファンダム経済というものが現代では巨大な力になっていることは容易に想像できる。こういうテーマを選ぶんだよなぁ、朝井リョウ!最高だ!
語り手は3人。レコード会社に勤め、デビューするアイドルグループの「物語」を担当する久保田慶彦。大学生で留学をめざしているがサークルでは浮いた存在の武藤澄香。久保田の娘だが親が離婚し、母親と暮らしている。3人目はある舞台俳優の推しだった隅川絢子。久保田がめざすのはファンの中でも特に「自ら布教活動に勤しんでくれるような熱量の高い一万人の育成」だ。澄香のサークル仲間は常に視野を拡げ世界のこと環境のことを考えるべきだという。しかし彼女は、いつの間にかアイドルに夢中になり、ファンダムの一員になる。絢子はファンダムであった過去を捨て、怪しい集まり
に参加している。
ファンダムとはすでに視野が狭まっている人間の集まりだ。目の前の大切な人に対して自分を使い切る、どれが正解とかではなく本物の気持ちだけを抱きしめて生きていく。視野を拡げていくことだけが人生の正解ではない、思わず頷いてしまうのだが、そこには危うさがないわけではない。後半「結局誰だって、信じる物語を決めて生きているだけだ」「皆各々のドラッグで自分の脳を溶かしながら死ぬまで生きるだけだ」という強烈なフレーズが提示される。
ファンダム経済を煽るものと純粋に活動を続けるもの。視野を拡げる生き方と視野を狭める生き方。その対比の中で物語は語られていく。その対比が映像化されたような渋谷を舞台にした最後の数章がなんだかスゴい。各々の思いが立ち上がり、混ざり合い、混沌としながらもどこかに向かっていく感じが凄まじい!そして、あのラスト!後半、2つの立場を並立させて交わらない文体が非常に魅力的。
◆DATA 朝井リョウ 「イン・ザ・メガチャーチ」(日本経済新聞出版)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)