水鈴社×角田光代という注目のタッグ!母とその息子の物語だ。その真ん中には、あるバンドマンがうたう魂の歌たちがある。
母のしずくはなぜか子供の彼女に関心を示さない両親のもとで育った。いつか彼女は「自分は誰にも見えないのかもしれない」と思うようになる。「学校ではだれも話しかけてこないし、授業で先生にあてられることもない」。そんなしずくがある日パン屋で聴こえてきた歌に心を奪われる。「夢を見るのは悪いことじゃない」「大丈夫さ、うまくやるさ、すべては始まったばかりさ」、その歌を聴いた途端に彼女は周りの景色をきれいだと感じるようになった。町に色がつき、光を発し、音に満ちあふれていることに気がついたのだ。
母のしずくと息子の新、父親はいない。新が産まれる前に不幸な事故でこの世を去った。新はキッチンカウンターに飾ってある写真の人が「おとうさん」だと母から聞いていた。しかし、それは、あのバンドマンの写真だった。ラスト近く、しずくが新にその人はあんたのおとうさんなんかじゃない、と告白するシーンがメチャクチャいい。そこで語られるしずくの後悔、夫トキオの冤罪を晴らそうと彼女がやったこと、その時の思いと新に嘘をつき続けた理由、その一つ一つが読む者の心を強く揺さぶる。そして、バンドマンとの事。「私とトキオは、その写真の人にすごくたくさんのことを教わったんだよ」「立ち止まりそうなときに救ってくれた」。
遠い昔、トキオがそうしたように、すーっとのばされた手、自分に向かって差し出された手、そのイメージが彼の歌のイメージと重なっていく。人はそれぞれに心の歌を持っている。これは人と歌とのそんな物語。苦しい時、寂しい時、絶望の淵にいる時、ひとつの歌が一人の歌手が人を救う。振り返ってみると、僕自身にもそんな経験があったような気がする。あなたはどうだろう??
小説に名前は登場しないが、バンドマンの名はRCサクセションの忌野清志郎!キヨシロー!!!彼とバンドの歌がいろんな場所に登場する。僕も大好きだった、いや今も大好きな彼の声が物語の中で再生される。最後に新は仲間たちと文化祭のステージに立つ。そこに集う人々!忘れ難いあの顔、この顔!圧巻のラスト!!
著作権など問題があるのかもしれないが、巻末に引用された歌のソングリストがあると新たなファンの掘り起こしに役立つのではないか。文庫化の折にぜひ!!
◆DATA 角田光代「明日、あたらしい歌をうたう」(水鈴社)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)