また、本の話をしてる

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【書評】大崎善生「聖の青春」-ここには村山聖という稀代の棋士の生と死が丸ごと描かれている

 このノンフィクションの中盤にこんな一文がある。

 

純粋さの塊のような生きかたとありあまる将棋への情熱。それにかける集中力と桁外れの努力。勝利へのあくなき執着心と、体を貫く灼熱の棒のような名人への渇望。生きることに対する真摯な姿勢。知らず知らずのうちに村山の純粋な魂に揺すぶられている自分に森は気づいていた。

 

 将棋の師匠である森の思いを通して語られる主人公・村山聖、29歳で夭逝した彼のすべてが上の文章に集約されている。昨年、同名の映画を観たが、映画では同世代のライバルだった羽生善治との対決に大きな比重が置かれていた。それはそれで大変おもしろかったのだけど、原作はさらに中身が濃く、村山聖という稀代の棋士の生と死が丸ごと描かれていた。

 

 5歳の頃から腎ネフローゼという難病を患い、幾度となく入退院を繰り返しながら、棋士になり、悲願である名人を一直線でめざす、ひとつの青春。そこには家族との絆の物語があり、少し風変わりな師弟の物語があり、同じ道を行く棋士たちとの切磋琢磨の物語がある。その中で少しも揺らぐことのない聖の魂に心を強く揺さぶられた。周りの棋士仲間たちがそうだったように、僕もこの村山聖という青年が大好きだなぁ。

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.8/4週)

 出た本。伊集院静の「愚者よ、おまえがいなくなって淋しくてたまらない」が文庫になってました。ううむ、「いねむり先生」は読んだんだけどなぁ。これは読んでない。たぶん、タイトルが情緒的で好きじゃなかったからじゃないかなぁ。でも、文庫になったから読んでみるか。

 

  さて、出る本。というか、出る雑誌。「オール讀物9月号」(8/22)は直木賞発表号ですが、総力特集「佐藤正午の世界」。内容はこんな感じです。

 

第157回直木賞発表「月の満ち欠け」佐藤正午の世界 総力特集
受賞作掲載(抄録)/自伝エッセイ
対談 ×竹下昌男(映画監督)
映画「ジャンプ」の監督と語り尽くす制作秘話・創作裏話
池上冬樹 クセになる佐藤正午のベスト10
祝エッセイ 私が愛する正午ワールド
山本文緒・東山彰良・島内景二

直木賞作家競作
石田衣良/姫野カオルコ/朱川湊人
宮城谷昌光 三国志名臣列伝 後漢篇

〈衝撃の小説家デビュー! 〉
髙見澤俊彦〈THE ALFEE〉
音叉
学生運動、フォーク、ロック喫茶……。七〇年代を舞台にメジャーデビューをめざす
若者たちの恋と葛藤をえがいた初の小説

特別読物 浅田真央を忘れない 宇都宮直子
新連載エッセイ 山本一力 ルート66

人気連載小説 小池真理子/乃南アサ/西村京太郎
シリーズ最新作
陰陽師 夢枕獏/まんまこと 畠中恵
閉店屋五郎 原宏一/新選組残月伝 小松エメル

岸惠子 愛のかたち(後編)

 

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【書評】村田沙耶香「殺人出産」-クレイジー紗耶香、全開!

 そうか、そうか、これがクレイジー紗耶香か。村田の作品は「しろいろの街の、その骨の体温を」「消滅世界」、そして「コンビニ人間」を読んでいる。作家仲間からクレイジーと呼ばれているのは知っていたが、この3作は、少しその気配はあるものの、クレイジーというほどではない。でも、これはねぇ。中編の表題作と短編の「トリプル」「清潔な結婚」、超短編「余命」の4作が収められているが、どれもがクレイジー!


 この4編に共通しているのは、今の時代のいわゆる「既成の概念」が古くなってしまった未来社会の話だということ。しかも、そのぶっ壊し方がすごい。「殺人出産」は少子化が進んだ1世紀後の日本が舞台で、そこには10人産んだら1人殺していいという「殺人出産システム」がある。これは命を生み出すための合理的なシステムと考えられていて「産み人」も殺される側の「死に人」もあがめられている。ある日、主人公は「産み人」である姉が10人目を出産したことを知るのだが…。さて、姉は誰を殺すのか?その先に待っているものは?


 「トリプル」は10代の間でカップルではなく3人で付き合うことが当たり前になりつつある世界の話。「清潔な結婚」は性が排除され、恋愛感情抜きでパートナーとして暮らす夫婦の話。「余命」は医療が発達して「死」が無くなってしまった世界、みんな「そろそろかな」と思った時に好きな方法で死んじゃうのだ。

 

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【映像化】みなもと太郎の「風雲児たち」、三谷幸喜脚本でNHKのお正月時代劇に!1月1日19時20分から

 おぉ、これはビッグニュース!「風雲児たち」はみなもと太郎の大河歴史ギャグ漫画で、SPコミックスで全20巻。さらに幕末編も連載中でこれが29巻まで発売されています。僕も全部は読んでいないけれど、これおもしろいです。ギャグ満載でまさにみなもと太郎ワールド!読み始めたら止められません。

 

 ドラマは「風雲児たち〜蘭学革命(れぼりゅうし)篇〜」で、原作では4巻あたりからの話です。前野良沢と杉田玄白の蘭学事始、前野には片岡愛之助、杉田には新納慎也、平賀源内が山本耕史、田沼意次が草刈正雄…そうです、「真田丸」のキャストです。この4人以外はまだ発表されていないので、堺雅人や大泉洋、長澤まさみあたりも出るといいなぁ。

 

 とにもかくにも、お正月に三谷幸喜ドラマ。これはすご〜く楽しみ!!!

 

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【新刊案内】出る本、出た本、気になる新刊!  (2017.8/3週)

 さて、出た本。「絵本作家61人のアトリエと道具」出ました。ううむ、これは何だかとても気になるぞ。知らない人も多いけれど、ヨシタケシンスケさん、長谷川義史さん、トーベン・クールマンさん、亡くなった安西水丸さんのアトリエも紹介されている。どんな道具を使っているのかも知りたい。よし、読もう!

 

○玄光社の本の紹介ページはこちら。

絵本作家61人のアトリエと道具 « 書籍・ムック | 玄光社

 

 出る本。ミロコマチコの新作絵本「まっくらやみのまっくろ」(8/17)出ます。いやいやいや、これはもうこのタイトルだけで、ミロコマチコワールド全開の物語だってことがわかるじゃないですか。楽しみっ!!!

 

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【BOOK NEWS】角田光代「源氏物語」、特設サイトがオープンしました!上巻9月12日発売

 

 池澤夏樹個人編集の「日本文学全集」から角田光代訳の「源氏物語」が出ることは前にもブログに書きましたが、特設サイトがオープンしました。上巻が9月12日発売ですからもう少しですね。これは僕も読もうと思っています。

 

サイトに角田源氏の特長について書いてあるので、まずそれを引用してみましょう。

 

①原文に忠実に沿いながらも現代的で歯切れがよく、心の襞に入り込む自然な訳文
②地の文の敬語をほぼ廃したことで細部まで分かりやすい
③生き生きとした会話文
④草子地(そうしじ)の文と呼ばれる第三者の声を魅力的に訳して挿入
⑤和歌や漢詩などの引用は全文を補って紹介

 

 うむ、そういうことですね。さらに「新訳について」という角田さんの文章から僕が気になった部分をピックアップしてみました。

 

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【BOOK NEWS】楽しみ!楽しみ!デビュー30周年記念特別作品、宮部みゆきの新刊「この世の春」

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 さてさてさて、今年は宮部みゆきの生誕…じゃなかったデビュー30周年なのですが、新潮社から30周年記念特別作品と銘打った小説「この世の春」が出ます。上下2巻で8月31日発売!30周年記念の特設サイトがあるのですがそこで紹介されているこの小説の惹句が何だかすごい。ちょっと引用してみますね。

 

小説史に類を見ない息を呑む大仕掛け
そこまでやるかミヤベ魔術!

 

それは亡者たちの声? それとも心の扉が軋む音? 正体不明の悪意が怪しい囁きと化して、かけがえのない人々を蝕み始めていた。目鼻を持たぬ仮面に怯え続ける青年は、恐怖の果てにひとりの少年をつくった。悪が幾重にも憑依した一族の救世主に、この少年はなりうるのか――。21世紀最強のサイコ&ミステリー、ここに降臨!

 

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