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【書評】高瀬隼子「うるさいこの音の全部」ーえっ、主人公は受賞作家?リアルとフィクションの間が曖昧になっていくところがすこぶるおもしろい


 「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子。これは受賞後に出た「いい子のあくび」に続く新作だ。表題作と「あした、ここは静か」という短編が収録されているが、どちらも主人公は同じ。表題作はゲームセンターで働きながらペンネームで書いた小説が新人賞を受賞し、ついに本が出た長井朝陽という女性の話だ。短編ではそんな彼女がなんと芥川賞を受賞してしまう。現実とシンクロしていてちょっとドキドキする。

 高瀬の小説は人間の「本音」を暴き出すようなストーリーがおもしろく、ブラックなユーモアもあり、読む側の共感を呼んでいるが、今回の小説は少しだけ味わいが違っている。表題作は2つの話が交互に語られるのだが、しばらくすると1つは主人公が書いている小説であることが分かる。本が出たことで彼女を見る周囲の様子が変わる。本人も長井朝陽とペンネームの早見有日の間で心が揺れ動く。さらに本が出たことを知った会社が彼女を程よく広告塔に使おうとする。これだけならば狂想曲みたいな話で終わるのだが、書いている小説にも影響が出始め、リアルとフィクションの間が曖昧になっていくところがすこぶるおもしろい。読む側も「あれ?これって??」となり、けっこう混乱してしまう。職場の人、地元の友人などいろいろな人間が登場するが、あ〜こーゆー人いるよな、と思わせる人間の造形が見事!それにしても、このタイトル、巧いなぁ。

 短編の方は受賞のインタビューで知らず知らずのうちに嘘をつき、その嘘が地元の人にも大きな影響を与えていくという話だけど、ちょっとリアルが過剰な感じがした。
◆DATA 高瀬隼子「うるさいこの音の全部」(文藝春秋)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)


◇高瀬隼子、その他の本の書評などはこちら。

 

 

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