「真鶴」みたいなどこかとんでもないところに連れていってくれる小説もいいが、川上弘美はリアルな恋愛小説もまたいい。匿名の電話で夫の浮気を知らされる妻ののゆり。夫の卓哉はその関係を否定せず、離婚さえほのめかす。浮気相手の里美の方は、卓哉は好きだが、恋愛をやめてほしいのならそれも可能だ、などと言う。「私,離婚した方がいいのかな」と叔父に問うのゆり。彼女自身、人づきあいがへたで、自分の思っていることもうまく伝えられず、卓哉を問いつめることもできない。結婚して7年、降って湧いたようなこの事件に、ただただとまどい途方に暮れるばかりなのだ。
それでものゆりは少しずつではあるけれど、卓哉との関係を自分の中で携え直し、前を向いて変わっていこうとする。この物語は彼女の変わりゆく魂の物語だ。川上弘美だからその物語が通俗に陥るはずもなく、かといってドラマチックな展開などはあるはずもない。33歳ののゆりという女性の小さな魂の彷徨を独特の語り口でゆるやかに語ってゆくだけだ。卓哉との関係は行きつ戻りつしながらも、ひとつの結論へとたどり着く。
ラストののゆりは、たぶん最初の彼女と少しだけしか変わっていないのかもしれない。でも、こののゆりは何だかとてもカッコいい。
◎「風花」は2011年4月、集英社文庫で文庫化されました。
2010.11.17 ひぃ~寒いですなぁ。暑いのもヤだけど寒いのもヤ。読書の方は「盤上のアルファ」を読み終わり、バーナード・マラマッドの「レンブラントの帽子」に突入。これはいいねぇ。
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