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【書評】原田マハ「モダン」-福島とワイエスの絵をシンクロさせた冒頭作の素晴らしさ!

 表紙には「モダン」というタイトルと共に「The Modern」という英語表記がされている。「The Modern」とはMoMA=ニューヨーク近代美術館のこと。これは自らキュレーターであった原田マハがMoMAを題材に書いた5つの物語からなる短編集だ。

 

 なんといっても最初の「中断された展覧会の記憶」が素晴らしい。あの大震災の時に福島の美術館でアンドリュー・ワイエスの展覧会が開かれていた、という設定。そこにはMoMAから彼の代表作である「クリスティーナの世界」が出展されていた。MoMAの理事会はフクシマからこの名画を「救出」することを早々に決め、展覧会ディレクターである杏子ハワードにその任務を委ねた。さて、どうなるのか。桜の季節の福島での美術館スタッフ長谷部伸子との再会。彼女は杏子にあるものを託して…。このラストに僕は涙した。「クリスティーナの世界」にはモデルがいる。ポリオで足が不自由なクリスティーナ・オルソンという女性。彼女の不屈な精神と福島の状況がシンクロする。見事な一編!

 

 さらには、監視員を主人公にMoMAに現れる不思議な訪問者を描いた「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」、初代館長との幼い頃の思い出をインダストリアルデザイナーになった男が語る「私の好きなマシン」。9.11で親友を亡くしたアシスタント・キュレーターの再出発を描く「新しい出口」、研修員としてやって来た日本人とアシスタントの交流を描いた「あえてよかった」、どれもがMoMAへの愛、美術館という空間への愛、ピカソやマティスなどの絵画への愛にあふれていてとても良い。読後、本当に幸せな気分になれる一冊。こういう小説集が賞を取れるといいなぁ。

 

◯この本は2018年4月、文春文庫で文庫化されました。 

◯原田マハのその他の本のレビューはこちら


◯「クリスティーナの世界」という絵について

 

 

2015.6.27 というわけで、フランス、中国共に善戦するも勝ったのはドイツとアメリカ。明日は早朝になでしこと豪州。勝とう!読書は窪美澄「さよなら、ニルヴァーナ」。

 

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