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【書評】絲山秋子「御社のチャラ男」-いやいやこれはただのチャラ男小説ではないぞ!

 

 いやいやいや、これはメチャクチャおもしろい。目次を見ただけでそれは分かっちゃう。こんな感じだ。

 

当社のチャラ男ー岡野繁夫(32歳)による

我が社のチャラ男ー池田かな子(24歳)による

弊社のチャラ男ー樋口裕紀(24歳)による

社外のチャラ男ー一色素子(33歳)による

地獄のチャラ男ー森邦敏(41歳)による

………

 

 まだまだ続きます。全16章!この目次を見ていると、ハハーンこれはアレだ、いろいろな人が主人公のチャラ男を語って、意外な面も含めたチャラ男像が浮き彫りにされる、って感じ?間違いない!と思っていたら、違った。

 

  いや、そういう面がないわけではない。見栄っぱりで、ファンションは独特で、話すことはみんなコピペで、努力しないでなんでも楽々こなしてしまい、勘でものを言い、一貫性がなく、クローンみたいにそっくりなのがどこにでもいる、などなどなどの証言?をいろんな人がする。その男、ジョルジュ食品の三芳部長。正真正銘のチャラ男である。

 

 ところが、読み進めていくにしたがって様相が変わって来る。うつ病から復帰したアラサーの女性や盗難癖のある中途入社の中年男、チャラ男の不倫相手の女性社員、実は政治家をめざす総務の女性などなど本人も含めて13人の社員や関係者が語り手になるのだが、これはチャラ男小説ではなく会社小説なのだと思えて来るのだ。日本独特の会社的なもの。それに翻弄され、いつの間にか取り込まれ、自分を見失い、何だか分からなくなっちゃう人間たち。その切なさ、哀しさ、アホらしさ。いや、それだけじゃない!絲山秋子の小説である。ただの会社小説なんかじゃないのだ。男と女の「猿山理論」であるとか、イケメン論であるとか、深く考えさせられる話がいたるところに登場する。

 

 終盤、ジョルジュ食品は何だか大変なことになっちゃうのだが、これってまるでコロナ禍にある日本の「今」とリンクしているような感じさえする。で、まぁ、こんな国だからこそチャラ男の皆さんは気持ちよく生き延びちゃうわけですよね。うむ!

DATA◆絲山秋子「御社のチャラ男」1800円(税別)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

チャラ男はこの国の

リトマス試験紙だ。

 

◯この小説は2024年1月、講談社文庫で文庫化されました。

 

◯絲山秋子、その他の本の書評や情報はこちら

  

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