「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」で始まるプロローグが印象的。ここで語られる「光」というものが物語全体を包み込んでいるような気がする。
主人公の冬子は人付き合いはもちろん会話さえうまくできず、会社でも完全に浮いた存在だ。校閲をやっている彼女は大手出版社の仕事を手伝うようになり、そこで聖という編集者と出会う。この小説の核になるのは冬子をめぐる2つの物語。ひとつは同い歳(34歳)で同じ長野出身の女性、聖との物語。そして、カルチャーセンターで出会ったかなり年上の男三束(みつつか)さんとの恋の話だ。
冬子と聖。性格が真逆の2人。聖は思ったことを何でも口に出してしまうので仕事はできるが敵も多い。冬子はそんな聖が毒のように吐く言葉を嫌がることもなく聞いている。2人の不思議な友情が三束さんとの話のバックグラウンドにもなっている。
三束さんは高校の物理の先生でその方面のことに詳しい。冬子は彼に「光をみるのが好き」と言い、空の青さの話などをしながら次第次第に親しくなっていく。恋というものを知らない冬子。三束さんと会うのにもお酒なしでは会えなくなってしまう冬子。ある出来事の後、恋煩いのようになってしまう冬子。そんなデリケートな女性の心情を作者は丹念にすくい取っていく。
後半から終盤への展開がすごい。聖との同性との友情と三束さんとの異性との恋愛が交錯する。それぞれの人物の孤独とその寂しさ。女性はもちろんだが男性も冬子らと思いを共有し、共感を寄せ、どこかで救いを感じる、そんな気がする。孤独であったり不器用であってもそれなりの生き方がある。真夜中の中に美しい光を感じるのだ。新しい人生を予感させるラストがいい。
DATA◆川上未映子「すべて真夜中の恋人たち」(講談社文庫)640円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
真夜中の光の美しさに
どうぞ気づいてください。
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2020.6.2 現政権、あまりにツッコミどころが多く情けなくなる。読書は片岡義男「彼らを書く」。
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