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【書評】宇佐美まこと「ボニン浄土」-物語は江戸時代、ある島に流れ着いた一艘の船から始まる。そして、話は現代へ!

 

 前作「展望塔のラプンツェル」がよかったので手に取った。タイトルから謎…。天保11年(1840年)、九十九里浜沖で暴風雨にあった気仙沼の五百石船の漂流譚から物語は始まる。船は流され続け、ある島にたどり着く。そこがボニン・アイランド!途中からこの船に乗り込んだ吉之助という若者が主人公になる。

 

 あ、時代ものなんだ、と驚きながら第1章の続きを読むと、舞台は現代に。祖父母に育てられた田中恒一郎は彼らが住んでいた三島市に越してくる。街の小物商で祖父が大事にしていた置物を見つけ、それがオガサワラグワと呼ばれる小笠原の固有種の桑でできていることを知る。さらに、現代の別の話。音楽一家に生まれた賢人という中学生はチェロを習っていたが同乗していた車の事故で同級生の女の子を亡くし、チェロの音だけが聞こえなくなってしまう。別居しているカメラマンの父・雅人が彼を誘い向かったのは小笠原だった。

 

  ボニン・アイランドとは小笠原諸島のことだ。日本人が見つけたこの島々は最初無人島(むにんしま)と名付けられ、ぶにん、ぼにんと呼び名が変わっていったらしい。吉之助たちの船が流れ着いた時、そこには西洋人の男女たち、南洋系の女たち、そして、1人の日本人が住んでいた。2章3章では吉之助たちの島での暮らし、住民たちとの交流が描かれ、吉之助はマリアというイタリアの女に恋をする。

 

 4章以降は同じ船で小笠原に着いた恒一郎、そして賢人と雅人の現地での話になる。恒一郎は置物のことと同時に海で死んだと聞かされた母のことが気になっている。島の人々との出会いの中で分かってくるこの島のこと、置物の謎、そして、母の死の真相。さらに物語は広がりを見せ、ミステリー的な展開になってくる。賢人は島の自然と人々との出会いの中で少しだけ心の強張りが緩んでいくのを感じる。

 

 何人かの人の回想を通して様々なことが明らかになる。江戸時代から太平洋戦争を経てアメリカの領土になり、日本に返還されるまでのこの島の歴史とその歴史に翻弄された現地の人々のこと。この2つが「ボニン浄土」という物語の中心にある。そこにある様々な思い!憎しみや悲しみ、そして安らぎ。主人公たちの物語を追いながら、自分の心の中で小笠原という島の過去と現在が交錯し、過去の人々と現在の人々の思いが交錯する、そんな瞬間が確かにあった。歴史を俯瞰するような物語の中で登場人物一人一人の心の機微が描かれるその見事さ。宇佐美まこと、いいなぁ。 

DATA◆宇佐美まこと「ボニン浄土」(小学館)1800円(税別) 

 

 ◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

ボニン・アイランドってどこだ?

江戸、昭和、現在、

この島で一体何が起こったのか?

  

◯宇佐美まことの前作「展望塔のラプンツェル」もいいです。


 
 2020.8.5  夏らしい日々。本当なら今頃オリンピックだったんだなぁ。ううむ。コロナ、沖縄が大変。読書は村上春樹「一人称単数」。

 

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