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【書評】松田青子「持続可能な魂の利用」-この「おじさん」の国に強く鋭い言葉たちが放たれる!松田青子も彼女が紡ぐ物語もとんでもない!!


 少女たちから「おじさん」が見えなくなる。そんな衝撃的なプロローグから始まる物語。これはもうとんでもない!個人的な読書体験の中でここまで女性の立場から今の日本を描いた小説を僕は知らない。女性たちが常に「おじさん」の視線に晒され自由になれないこの国。主人公の敬子は妹のいるカナダでの短期滞在から帰国し、空港に降り立った途端に激しい違和感を感じる。女の子たちが声が小さく弱々しい。彼女には日本の女の子たちが「最弱」に見えた。これでは日本の女の子が負けてしまう!!

 

 

  そんな彼女が街頭MVで観ただけの××とそのグループに一気に惹かれる。笑わず反抗的なメッセージの歌を挑戦的に歌い踊る彼女たち。その後ろに「あの男」がいることも、そのスタイルがある種の戦略であることも理解しながら敬子はアイドルである××たちに可能性を感じるのだ。この物語で彼女たちが果たす役割は大きい。

 

 ここでいちいちストーリーを追ったりはしないが、物語の中で語られる言葉が強く鋭い。「抗い続けなければ、どの瞬間にも、「おじさん」の悪意に、「おじさん」がつくったこの社会の悪意にからめ取られてしまう」「隠れて楽しむ。それは女性たちがはるか昔からやっていたことだ」「日本社会は、常に女性に制服を課しているようなものだった」などなどなど。敬子の元の会社の同僚・香川の行動と「発表」という形で語られる未来の少女たちのレポートも容赦がない。

 

 そして、2章。その驚くべき展開!そこには少女たちの、いや女性たちの「楽園」が出現する。松田青子はこれを描きたかったのだろう。その開放感を!!××は平手友梨奈と欅坂46を連想させるが、伏せ字になっているのには作者の意図がある。それは最後に分かる。

 

 ここで書かれていることはセクハラ、パワハラが顕在化している今、頭では理解可能だろう。しかし、そのリアルをリアルとして受け止めることが「おじさん」ではない男たちにも実際にはできない。その痛みや悲しみを共有する魂が僕らには未だないのだ。きっと。一番に読むべきである「おじさん」はこれを読んでも何も分からないし、何も感じない。ならば、若い男性、若い女性にぜひぜひ読んでもらいたい。それがきっと未来への大きな希望を生む。間違いなく!
DATA◆松田青子「持続可能な魂の利用」(中央公論新社)1500円(税別)

 

 

 

 

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