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【書評】椎名誠「続 家族のあしあと」ー少年シーナは小学校から中学へ。父を亡くしたシーナ家の大騒動はまだまだ続く!

 

 さて、息子の話、孫たちの話、自分自身の話と円環のようにつながった椎名誠の「岳物語」のシリーズ。少年シーナの何だかすごい家族の話は前作「家族のあしあと」に次いでこれが2作目だ。ただ「あとがき」によると「この私小説も、書いている当人が中学生になったあたりで終わりにすることにした」とある。この1冊でシリーズの環は閉じられることになるのかもしれない。

 

  前作で父親を亡くしたシーナ家だが、シーナ自身は6年生から中学に進学し、主人を失ったその家は相変わらずの騒々しさだ。今、そこに住むのは母親とシーナたちとは異母兄弟である長男、なかなか家に帰ってこない次男、シーナと弟、母の弟とその息子の計7人。母は生活のために舞踊教室を始めるために駆け回っているし、シーナは相変わらず友だちとつるんで遊びまくっている。長男に結婚話が持ち上がったり、舞踏教室のおさらい会で一波乱起こったり、叔父さんに泥棒の嫌疑がかかり、久々に帰って来た次男は戻った夜に事件を起こす。まさにこの本はタイトル通りの「家族のあしあと」なのだ。椎名誠が中学生の自分として語るその語り口が素晴らしい。

 

 それにしてもラスト近くの「さようなら、ジョン」にはマイッタ。そしてあとがきの「この自分を見つめた私小説をさらに書き進めていくと心情的にどんどん暗くなっていくことがわかってきた」という言葉。こういうライトな物語だけど、やはり私小説は私小説なんだな。けっこうそれを書いていくことは作者にとっても苦しいことなのだろう。これはその重さが読む者の心にもしっかりと残る魂の物語。
◆DATA 椎名誠「続 家族のあしあと」(集英社)1500円(税別)

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

ここにはくっきりはっきりと

家族のあしあとが残っている。

 

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