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【エッセイ/書評】山本文緒「無人島のふたり」ー緩和ケアを選び58歳で亡くなった作家の最期の言葉たち。読むか読まないか迷ったけれど読んでよかった! 

 

 副題は「120日以上生きなくちゃ日記」。本の最初に、著者が2021年4月に膵臓がんと診断されステージ4bだったこと、進行を遅らせることしかできないがそのためにやった抗がん剤治療は地獄だったこと、医師や夫と話し合い緩和ケアへ進むと決めたこと、が書いてある。これは2021年10月に58歳で亡くなった作家・山本文緒さんの2021年5月からの日記である。タイトルは思いもよらない宣告で「突然20フィート超えの大波に襲われ、ふたりで無人島に流されてしまったような、世の中の流れから離れてしまったような我々」という記述から、サブタイトルは宣告された「余命4か月」から来ているのだろう。

 読むか読まないか、迷った。死に向かっている人の日記を読むのは精神的にかなりキツい。しかも、山本文緒さんは好きな作家だ。それでも読んでみようと思ったのは、彼女がどんなメッセージを残したのか知りたかったから。その欲求に抗えなかった。でもやはり、読んでいて苦しくなったけれど。

 

 山本さんがここに書いたことが気持ちのすべてではないと思う。でもこれは「書く人」だからこその「日記」だと随所で思った。ユーモアがあり、本音があり、冷静でもあり、読まれることをしっかりと想定し、読者に向かれて書かれている。最初の方で緩和ケアのクリニックのスタッフに「ええと、そもそも」と語り出す病気の前兆と病院のこと、癌の発見と化学療法のこと、これまでの経過を山本さんは淡々と書いているのだがこれはとてつもなく辛いことだと僕は思う。一方で「これ、『120日後に死ぬフミオ』のタイトルで、ツイッターやブログにリアルタイムで更新したりするほうがバズったのではないか」というユーモア!いろんな人に会いお別れをし、夫のことを心配し、手元にある本を読み、食べたいものを少しだけ食べて…。

 

 9月11日の日記で、これを書くことで頭の中が暇にならずによかったこと、「病と私」だけにならずに済んだこと、終わりを目前にしても「書きたい」が残っていて、それに助けられたことを書いている。これはすごく、すごく分かるし、よかったなぁ、と思う。思うことは他にもいろいろあるけれど、それは読んだ自分だけのものにしておきたい。だから、読みたいと思った人は読んでみてください。

 

 「明日また書けましたら、明日。」、最後に繰り返されるこのフレーズが辛く切ない。               ◆DATA 山本文緒「無人島のふたり」(新潮社)

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)