この小説のおもしろいところは西武大津店という実在したデパートが主役になっているところだ。タイトルでも分かるようにこの物語の主人公は成瀬あかりというかなりユニークなキャラの女子中学生だ。それでもこの全6話の連作短編の中心には今はなき西武大津店というデパートがある。そこがいい!!
作者の宮島未奈はこの本に収録された6つの中の最初の話「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」の大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞している。トリプル、すごい。11回目からは「性」というテーマ制限はなくなってはいるけれど、R-18でこういう中学生の青春モノが選ばれたことにもちょっと驚く。
小さな頃からずっと身近にあったデパートの閉店、主人公・成瀬はなにを思ったか閉店までの夏休みの日々を「毎日西武に通う!!」と「十四年にわたる成瀬あかり史の大部分を間近で見てきた」島崎みゆきに宣言する。お別れ企画で毎日生中継する「ぐるりんワイド」の生中継に映り込む成瀬。いつの間にか島崎も巻き込まれて。そして最終日、な、なんと成瀬に一大事が…。こんなひと夏の出来事がなんだか楽しく、切ない。ぶっきらぼうな物言いと他人のことなど気にしない一直線の成瀬のキャラが印象的だ。
西武大津閉店後の成瀬の夢は「大津にデパートを建てる」ことだ。さらに彼女には「200歳まで生きる」という野望?もある。腐れ縁のような島崎とはその後の話で漫才で文化祭に出てたりM-1予選にまで挑戦している。さらに、高校生になった成瀬は坊主頭で初登校したり、かるた部で活躍したり、西武池袋本店を視察?に行ったり、実は東大志望?だったり。なんだかわからないままに読者は暴走気味の成瀬あかりにどんどん惹かれて行くのだ。これ、続編を期待しちゃうなぁ。「大津にデパートを建てる」という天下取り?のところまで行っちゃうのではないか。成瀬たちがワキに回った「階段は走らない」という1編は、西武大津にこだわりがある男たちの話で、これもまたいい。
◆DATA 宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
西武大津店、閉店!
一人の少女が決意の行動に出る。