芥川賞受賞作。主人公は作者と同じ難病の一つである筋疾患「先天性ミオパチー」の患者で車イス生活を続けているという設定。タイトルの「ハンチバック」はせむしという意味で表紙のイラスト同様、かなり攻めてる感じがある。
冒頭、〈head〉〈title〉などHTMLタグが入った文章が始まり困惑する。しかも、内容がやたらとエロい。な、なに、こんな話?と思っていると、これは主人公がライティングのバイトをしているコタツ記事「都内最大級のハプバに潜入したら港区女子と即ハメ3Pできた話」であることが分かる。この導入部、なかなかうまい。
主人公はグループホーム・インクルサイドという両親が彼女に遺した終の住処で暮らしている。その日常を語る中で自身の身体の状態も語られる。「重力は私のS字にたわんだ背骨をもっと押し潰そうとしてくる」「硬いプラスチックの矯正コルセットの間に挟まれた心臓と肺は常に窮屈な思いをパルスオキシメーターの数値に吐露した」などという記述の後に「息苦しい世の中になった、というヤフコメ民や文化人の嘆きを目にするたび私は「本当の息苦しさも知らない癖に」と思う、などという辛辣な言葉が続いてドキッとする。この障害者側からの叫びは、やはり強烈だ。時は現代、コロナ禍の話である。
さらに「私は紙の本を憎んでいた」という一文。「目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること。書店へ自由に買いにいけることー5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた」というフレーズ。次々と放たれるこの強烈な言葉の矢が読むものを打ちのめす。その言葉の一つ一つが「ハンチバック」という小説の魅力であり魔力だ。
後半、そして、スタッフの田中との間の出来事を描くラストには賛否があると思うが僕は嫌いではない。とにかく主人公が自分や周りや社会に向かってぶちまけるように話す言葉の強さに圧倒される物語である。
◆DATA 市川沙央「ハンチバック」(文藝春秋)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
息苦しい世の中?
本当の息苦しさなんて知らない癖に。
◯今回の芥川賞の記事はこちら!
2023.10.4 まずい、スポーツにハマるとまずい。読書は宮部みゆき「青瓜不動 三島屋変調百物語九之続」。
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