わぉ!これはおもしろかった。年内に読んでいたらマイベストに確実に入っていた傑作だ。金原ひとみ、やっぱスゴイぞ。紹介文には「最高のバイト小説」って書いてあるが、この物語にはより大きなテーマが内包されている。そこが大事!
物語の舞台はイタリアンレストラン「フェスティヴィタ」。主人公というか語り手である真野はコロナ禍でハケン切りにあい、ここでバイトとして働いている。緊急事態宣言が出てからはレストランの控え室が個性溢れるバイト仲間たちの溜まり場となり、閉店後は飲んだり食べたり踊ったりの場所になった。全体は4つの章に分かれているが、どの話もこの控え室での会話が発端になる。かわいいメイちゃんをフッた元カレ襲撃やクラブでのひと騒動、激辛フェスでの岡本くんのプロポーズ・プロデュースなどなど!金原ひとみは饒舌すぎるセリフで彼女や彼らの騒がしくもパワフルなバイトライフを活写して見事だ。
そんな個性的で行動力のあるバイト仲間の中で真野という女性は「なんの取り柄もないし、まじ永遠の底辺」「バイト仲間に対しても私は皆を見上げ自分を卑下してばかり」「まじで人と自分を比べてばかりの人生」という具合で、店にいても疎外感や自分だけ取り残されているような孤立感を抱いている。彼女は他のメンバーと比べていたってフツーの人間なのだ。でも、なぜか真野は「ずっとここに居たい」と思うほどこの場所が気に入っている。
リストラされたその日暮らしのフリーターの彼女を周囲もまた否定しない。「普通であることは、尊いことです。真野さんの普通さを買っている人は他にもいると思います」。この小説はウルトラノーマルの人々へのエールの物語だ。ラスト、フツーであってフツーじゃない真野の飛翔がいい。
◆DATA 金原ひとみ「ハジケテマザレ」(講談社)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)