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【書評】小川洋子「原稿零枚日記」-すべてが虚なのではない。実の中に虚がある

 小川洋子の最新刊は、原稿を書くのがなかなか進まない小説家の日記という形で書かれた長編小説だ。その女流小説家は、取材旅行の帰りに苔料理の専門店に寄ったり、週刊誌の取材を受けているうちに祖母の右肘に住んでいた2人の老女を思い出したり、運動会や子泣き相撲にまるで関係者のようなふりをして入り込んだりする。有名な作家の名前が浮かばず何とか思い出すために彼の小説を盗作したり、あらすじを書くのが得意で「あらすじ教室」の講師まで頼まれている。

 

 これらすべては「現実」を足がかりにしながら、虚構の世界にそっと足を踏み入れているような話だ。すべてが虚なのではない。実の中に虚がある。その世界を楽しみながら、人間の不思議さやおもしろさ、奇妙さを思い、僕らが生きているこの世界自体の不条理さをも感じることができるのだ。もちろんそれは「日記」というスタイルだからこそ表現することができたものなのだろう。

 

 最後近くの現代アートの祭典をめぐるツアーの展開が秀逸。ラストが図鑑の話であっけなく終わるのもいい。小川洋子らしい小説ではあるけれど、微妙なテイストの違いが後を引く。しばらくたって1日分を読み返してみるとまた新たな発見があるような小説だ。一読の価値あり!

 

○小川洋子「原稿零枚日記」は、2013年8月集英社文庫で文庫化されました。 

2010.10.25 昨日は調布の多摩川河川敷で行われた「もみじ市」に。おいしいチーズケーキとパンを発見できて喜ぶ。それにしても、個人でがんばっているアートやフードな人は多いなぁ。すごい。

 

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