片岡義男の小説は好きで、昔は赤い背表紙の角川文庫を次々と読んでいた。しかし、その頃は、この人の本当の価値、小説の素晴らしさをまったくわかっていなかったように思う。数年前に出た「片岡義男コレクション」で彼の物語を読みなおしてみると、かなり実験的なものがあるし、海外小説の影響を彼なりに消化して見事に自分のスタイルにしている。とにもかくにも片岡義男の小説はおもしろい。
さらに、彼は、最高のコラムニストでもある。文房具など「モノ」が好きだったり、言葉に対するこだわりがあったり、音楽に対する造詣が深かったりといろいろな側面があり、彼のコラムやエッセイには刺激を受けることが多い。
さて「ここは東京」、写真集だ。困ったことに、というか何というか片岡義男は写真もまたいい。それは、彼のエッセイに似ている。対象との距離の取り方が抜群にうまいのだ。これはタイトル通り「東京」を撮った写真集だ。とは言っても出てくるのは、ひなびた店の店頭に並んだ食品サンプルや無造作に置かれたポリバケツ、手描きで書かれた店のちらしやメニュー、雨樋や電信柱やのぼりなどなど。タイトルとシンクロさせれば、その意図は明確だ。しかし、その意図を持って撮ろうと思っても、素人にはけっしてモノにすることができない写真がここには何枚もある。
「あとがき」の中で彼が「被写体の出来ばえ」と語っているのがとてもおもしろい。そして、時間の経過と写真と自らを語るそのコラムは見事な写真論になっている。さすが、片岡義男、である。
2013.10.7 凱旋門賞…あ〜ぁ。かなりガッカリ。負担重量の差も大きいけれど、それでも…。え〜っと、で、読書は小野不由美「丕緒の鳥」。
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