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【書評】村上春樹「女のいない男たち」-誘発されるものが多く心を揺さぶられる短編集

 村上春樹はやはりおもしろい。7話が収録されたこの短編集、最初の物語など本当に普通に始まってフツーな感じで進んでいくのだけれど、読んでいるうちにコトリと心のどこかで音がする。それに耳を澄ませていると、いつの間にか主人公のことよりも自分のことをいろいろと考えている。物語から誘発されるものが村上春樹の小説ではひときわ多いような気がする。特に、短編、では。

 

 作者自身がまえがきで語っているように全体のモチーフはタイトル通りの「女のいない男たち」だ。妻に不倫され、しかも先立たれた舞台俳優、初めて夢中になった人妻に去られた独身主義の医者、寝物語を語ってくれる女がいなくなることを恐れる正体不明の男、妻に裏切られ離婚し、バーを始めた男などなど。それぞれの喪失のカタチ、どれもがおもしろく、思いを巡らすことも多いのだが、「独立器官」と「木野」が僕は特に好きだ。

 

 恋煩いから、成功者である医者が自分の価値に深い疑念を抱くようになる「独立器官」、彼が堕ちて行くそのプロセスが強く心を打つ。「木野」は結婚に傷つき、バーを始めた男が、直視できずにいた自らの心の闇に向かいあう話で、これは読み応えがあった。そして、表題作である最後の一編。人とその生、男と女、それらすべてを飲み込んだような話で、村上春樹らしいレトリックたっぷりの語り口に心引かれた。彼の短編は以前から好きだが、これもまた一編一編が充実した短編集だった。

 

◯この本は2016年10月、文春文庫で文庫化されました。

 ◯村上春樹のその他の本のレビューはこちら

  

2014.6.1 6月なのに真夏のように暑い。やれやれ。今年は冷夏だと聞いたが、ホント?読書は「HHhH プラハ、1942年」。興奮。

 

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