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【書評】絲山秋子「薄情」-「地元」と「よそ者」、地方都市に生きる若者の今がここにある

 今年の谷崎賞受賞作品。絲山さんの小説は好きでよく読んでいるが、これは最近の作品では一番おもしろかった。というか、とてつもなくおもしろくて、今年のマイベストの上位に入ってくるのは間違いないと思う。

 

 主人公の宇田川は東京の大学を出て今は高崎の実家で暮らしている。伯父の神社を継ぐことが決まっていて、多忙な半年は神社を手伝い、ヒマな半年は嬬恋のキャベツ畑でアルバイトをしている。この宙ぶらりんで不安定な暮らしを続けることに彼自身が倦んでいる。

 

 物語は平成26年のあの豪雪から始まる。この「閉ざされた感」と「一大イベント感」が物語の始まりとしてすごく効いている。そんな中で宇田川は高校の後輩である蜂須賀と再会する。2人は一度「地元」を出て戻ってきた、という共通点がある。この女性との微妙な関係がずっと描かれるのだが、2人の間で交わされる会話がとてもおもしろい。さらに、東京からやってきた大工職人の鹿谷さんがやっている変人工房と呼ばれる場所のこと。そこで出会う様々な人々。

 

 これはまさに「地元」の物語であり「地方都市」の物語だ。この小説に登場する人々の会話や思いは自ら「地元」で生きている人間や田舎から都会に出てきた人間にとってはまさにビンビンと心に響くものだろう。この「リアル」はちょっとすごい

 

 そんなある日、変人工房で決定的な事件が起こる。当事者である「よそ者」鹿谷ともう1人の「地元」の人間。「薄情」というタイトルをずっと気にしながら読み進めてきたのだが、この事件の後で宇田川が語る言葉にその答えがある。「よそ者」に対する薄情、それは自分たちなりの「気遣いから出したひとつの結論なのだ」と。この薄情はよく分かる。そして、もう1人の「地元」の人間にはまだチャンスがある、と宇田川は言うのだ。

 

 

 「地元」と「よそ者」、このように書くとなんだか古くさい物語のように感じるかもしれないが、まったくそんな感じはしなかった。それは宇田川というキャラクターのせいだろうか?散りばめられた「今」を感じる様々なエピソードのせいだろうか?それとも、東京と微妙な距離にある高崎が舞台だからかもしれない。

 

 東京のような都会の暮らしと対をなす地方都市の暮らし、そこに生きる若者たちのリアルを描いてこれはまさに絲山秋子らしさが横溢した「現代」の物語だ。

 

◯この本は2018年7月、河出文庫で文庫化されました。

 ◯絲山秋子の他の本の書評はこちら

 

2016.9.14 東京、9月に入ってずっと雨が降る日が続いている。今日も少し雨。読書は「〆切本」を拾い読みしている。

 

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