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【書評】辻村深月「傲慢と善良」-婚活はこんなに苦しいのか?主人公・真実の苦悩と痛みが強く心を打つ

 冒頭、主人公の坂庭真実が架(かける)という男に「あいつが家にいるみたい」と電話をして助けを求める。彼女はその後、行方不明になりストーカーにあっていたらしいことが判明する。えっ?こういう話?と最初は驚いたが、この物語は真実の失踪を端緒とした「婚活」がテーマの物語だ。実は彼ら、婚活で出会ったカップルで結婚を間近に控えていた。いったい2人に何があったのか?

 

 警察ではなぜか事件性が薄いと判断されたため、架は真実の行方を捜すために、彼女の両親や婚活相手の男たちなど関係者と会い、ストーカーのことを突き止めようとする。そこで次々と明らかになってくるのが真実の過去であり、彼女を含めた婚活中の男女の様々な思いだ。

 

  自分の価値観に重きを置きすぎる傲慢さ、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらってばかりで「自分」というものがない善良さなどなど、婚活はなんだか人を追い詰め、そこにはもう恋愛というものが存在しないようにさえ思われる。主人公・真実の苦悩と痛みが心を打つ。おそらく、渦中にいる男女にはこの物語はさらにグサグサと突き刺さるだろう。それにしても婚活をテーマにここまでグイグイと書いていく辻村深月ってすごいなぁ。

 

 一部の最後で明かされる驚きの事実。後味は悪いだろうがここで終わってしまってもいい、と僕は思ったが、さらに二部がある。そこでは真実の側から失踪が語られる。その展開には救いがあるのだが、ラストには少し違和感があった。それにしてもこの小説、話題性があるなぁ。いろいろなところで話題になりそう。

 DATA◆辻村深月「傲慢と善良」(朝日新聞出版)1728円(税込)

 

◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉

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