後半、何度か本を閉じた。主人公たちにこれ以上災いが降りかからないようにと願うのだが、残念なことに物語はその方向にグングンと進んでいってしまうのだ。救いのない物語…ところが残り20ページ強で「アッ!」「エッ?」と思わず声が出るような展開。展開というよりもこれは構成の妙と言った方が正しいだろう。ううむ、すごい!本当に驚いた。
物語の舞台は多摩川市という架空の街。ラーメンチェーンで成功した男が建てたベイビュータワーの下に広がる街だ。南と北では貧富の差がある。何人かの主人公がいる。児童相談所で働く悠一と児相と連携している「子ども家庭支援センター」の職員志穂、中学のクラスメイトで今は半同棲のカイ(海)とナギサ(那希沙)、彼らが出会った口をきかない子ハレ。不妊治療を続ける郁美と圭吾の夫婦。
悠一たちは家庭内暴力を受けている壮太など多くの子供とその親への対応に疲れ果てているし、フィリピーナの母を持つカイは仲間外れにされ、ナギサは自分の兄やその仲間たちの玩具にされている。郁美と圭吾の夫婦は治療が上手くいかず、夫婦の間にも次第にヒビが入る。それぞれがそれぞれの問題を抱え、それぞれがそれぞれと少しだけ接点がある。
最初に書いたように彼らの物語は沸点まで行ってしまうのであまりに辛い。そして、残り20数ページ!この展開があるがために、僕ら読者はその辛さから救われる。そして、気がつくのだ。これは「家族」の物語なのだと。真ん中に「家族」というものがあり、それを希求する人々がいる。家族といってもそのカタチは一つではない。いろいろな家族のいろいろな幸せ。いずれにしても宇佐美まことが只者ではないことは確か。これからもこの女流作家の小説には注目していきたい。
「展望塔のラプンツェル」はこの秋発表予定の山本周五郎賞ノミネート作、2019年「本の雑誌が選ぶベスト10」第1位にも選ばれている。
DATA◆宇佐美まこと「展望塔のラプンツェル」(光文社)1700円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
家族には、
いろいろな形がある。
いろいろな幸せがある。
◯先日紹介した宇佐美まことの最新作「ボニン浄土」も気になる!
◯今年度の山本周五郎賞・三島由紀夫賞のノミネート作品はこちらから
2020.7.1 ワッ、7月になってしまった。コロナに明け暮れた今年前半。さて、後半は?読書は「フジモトマサルの仕事」。
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