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【書評】高山羽根子「首里の馬」-今期芥川賞受賞作。沖縄に関する資料の整理と世界の人々へのクイズの出題。それが彼女の仕事だった

 

 芥川賞受賞作。当たり前のことだが物語はそのラストへ向けて収斂していく。この小説はその収斂の仕方がとてもいい。最後に語られる主人公未名子の想いも心にストンと落ちた。こういう物語を久しぶりに読んだような気がする。

 

 舞台は沖縄首里、港川と呼ばれる一帯。そこで未名子は順(より)さんという老女が個人的に集めたこの島に関する資料のインディックスカードの整理と確認作業を続けている。10年前、中学校にもあまり行っていなかった彼女は順さんと出会い、その作業を手伝うようになったのだ。この資料が役に立つものなのかどうか、未名子自身はよく分からないままに。彼女にはそれとは別に仕事がある。ビルの一室でこの世界の何処かにいる人々と対峙し、クイズを出すという奇妙な仕事だ。順さんの資料館での作業、このクイズの仕事、どちらもその価値は不明だ。しかし、そこには未名子という女性の孤独の深さと閉塞感、順さんやクイズの解答者たちのそれがいろ濃く漂っている。

 

  順さんは次第に弱っていき、資料館も手放すことになる。未名子もクイズの仕事を辞める。そんな中で彼女は一匹の生き物と出会う。宮古馬(ナークー)という沖縄在来の馬だ。終盤、彼女は順さんの資料を残すことが自分の使命だと思い始める。「この資料がだれかの困難を救うかもしれない」と。世界にいる(どうやら彼らがいるのはどこも極限の地らしい)クイズの解答者がここで重要な役割を果たす。この展開がおもしろい。これは「記録を残す」ことをテーマにした物語だ。その価値の有無よりも残すことの意味がここでは問われいる気がする。ヒコーキと名付けられた馬が彼女に寄り添っている、そのラストが強く印象に残った。
DATA◆高山羽根子「首里の馬」(新潮社)1250円(税別)

 

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