谷川俊太郎さんが命名した死をめぐる絵本シリーズ「闇は光の母」の3冊目。谷川さんが文章を書き、合田里美さんが絵を描いている。自死をテーマにしたことで注目されNHKの「ETV特集」でも先日取り上げられた。合田さんの絵は最近、本の表紙などでよく見かける。僕は好きだなぁ。
最初の見開き、左ページにタイトルと作者名、右ページに子供部屋の一角を切り取った絵、そこに「ぼくは しんだ」の文字。次の見開き、月が昇った夜の街、それを丘のようなところから眺めている主人公の男の子。小学校の高学年だろうか。そこに「じぶんで しんだ」「ひとりで しんだ」の文字。
なぜ彼が自殺を選んだのか?その理由が語られることはない。イジメなど直接的な原因があったわけでもない。物語は淡々と続く。「あおぞら きれいだった ともだち すきだった」「おにぎり おいしかった むぎちゃ おいしかった」という文章があるが、その後に「でも しんだ ぼくは しんだ」というフレーズが繰り返される。
合田里美の絵は饒舌に語ることはしないが、彼が見ている世界がしっかりと描かれている。そこには明るさもあるが同時に寂しさもある。生があり同時に死もある。死を語ること、自殺を語ることは簡単なことではない。さらに、死にたい人間を止める術があるのかどうかも分からない。
ただ、自分と同じ思いの人間がいる、ここからいなくなってしまいたいと思っている人間がいる、ということを知るだけでも救いになる人がいるのではないか。難しいテーマに真摯に取り組んでいる大切な絵本。最後の「編集部より」という文章に作った人たちの思いのすべてがある。。◆DATA 谷川俊太郎:作 合田里美:絵「ぼく」 1700円(税別)岩崎書店
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
ぼくのこと、少しだけ
話してみたかった。
2022.3.10 さて、今日は宣伝会議賞の贈賞式。僕はまぁネット中継を見ます。読書は川上未映子「春のこわいもの」。