この小説については当ブログでもすでに2度ぐらい書いている。「本の雑誌」の上半期ベストテン、本来ならこれが1位なのだけど、直木賞取っちゃいそうだから10位にしたら、な〜んとノミネートもされなかったというちょっといわくつきの1冊。こういうの読みたくなっちゃうんだよなぁ。
で、これは三世代の母と娘の物語。美智子、エリカ、陽向の3人。エリカの母が美智子、陽向の母がエリカ。舞台は愛媛県の伊予市。物語は第一部が「伊予市にて」、各章が1977年、1988年、1992年、2000年の各8月の話、第二部が「団地にて」、こちらは2012年の6月から2013年の8月までの全7章。プロローグとエピローグが付いている。と、内容を紹介しないで外側をなぞっているのは、話を書いてしまうと読む側の楽しみを一気に奪ってしまいそうだからだ。この物語、とにかく構成が素晴らしい。プロローグがとても効いていて、うん?この女性は誰?という疑問がしばらくの間続く。一部は母・美智子と娘・エリカの物語、二部は母・エリカと娘・陽向の話。彼女たち一人一人に辛い過去があり、辛い現在がある。男性を信じることができないし、呪縛のように地元を離れること、母親の支配から逃れることができない。
二部では紘子という女性が登場する。彼女の目で語られる陽向のこと、そして、団地に住むエリカ家のこと。さらに、そこで起こるある悲惨な事件。プロローグに連なるように語られるエピローグがいい。すべてを断ち切るという「彼女」の勇気と生への希望。かなりハードではあるけれど強く心に残る物語だ。
◆DATA 早見和真「八月の母」(KADOKAWA)