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【書評】金原ひとみ「腹を空かせた勇者ども」ー娘と母の関係はいつも特別!これはスゴい!今年のマイベストの上位に入りそうな傑作!


 いやぁこれはスゴイぞ。今年のマイベスト上位に入りそう。4つの物語からなる長編小説だが、全体を貫いているのは娘と母の物語。もっと大きな話をすればこれは相互理解の話だ。親子の関係、そして、友だち達との繋がりもこの小説では大きなポイントになっている。娘の一人称で書かれた物語は前作「デクリネゾン」の裏返しとも言えそうだ。

 主人公のレナレナこと森山玲奈は中高一貫の女子校に通う中学生。映画の配給会社に勤める母親は公然不倫中で週に二、三回彼氏のところに泊まってくる。レナレナは10歳ぐらいの時に「ママと自分が人としてものすごく違う」ことに気がつく。母娘の会話はことごとくすれ違い、レナレナは母の言葉がいちいち気に触る。それでもママに理解してもらえないのは「心が半分焼け焦げた」みたいな気持ちになるし、ママとはずっと一緒に暮らしたいと思っている。娘と母親の関係はいつでも特別なものがあるのだ。

 表題作である第1話が密度が濃くて飛び抜けていい。ママの彼氏がコロナに罹患。そのためレナレナはバスケの大会に出られなくなり、彼女の感情が爆発する。母娘のバトルがスゴイ。しかし、レナレナの友だちのことで一大事が起こると彼女はママに頼り、ママはスマートに解決を図る。ママは友達が困ってる時に馬鹿正直に行動する娘を褒め「玲奈を通して、これまで軽蔑してきた人たちのことを、私は少しずつ認められるようになってきた気がする」と彼女に語る。反発し合っているように見えて、母と娘はしっかりと繋がっているのだ。

 友だちでやはり親がうまく行っていないミナミ、成績で悩むヨリヨリ、コロナで家の定食屋が苦しい駿くん、中国人として差別を受けることも多い留学生のイーイーなど、レナレナの周りの人間はそれぞれ問題を抱えている。レナレナはある時ははしゃぎながら、ある時は真摯に話し合い、彼女や彼と舌ったらずながらも相互理解を図ろうとする。そんなレナレナがなんとも素敵だ。

 これはまさに今の中高生の思いがたくさん詰まった物語。娘世代、母世代に限らず多くの人に読んでもらいたい傑作だ。ぜひ!
◆DATA  金原ひとみ「腹を空かせた勇者ども」(河出書房新社)

 ◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)

 
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2023.9.6 高崎の義父が亡くなる。寂しい。読書は杉本昌隆「師匠はつらいよが終わったところ。

 

 

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