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【書評】安堂ホセ「ジャクソンひとり」ー軽快な文章を通して描かれるのは、まるで個など存在しないように扱われるブラックミックスのマグマのような怒りだ

 
 文藝賞受賞作で今回の芥川賞でもノミネートされた1冊。読み始めた時、これはL.A.かどこかの話かと思った。すぐに日本が舞台だと分かるのだが、少し乾いたリズム感のある文体がそう思わせるのかもしれない。映像的でもある「ジャクソンひとり」という物語にはこの文体がよく似合っている。

 主人公ジャクソンのTシャツに謎のQRコードが埋め込まれていた。偶然読み取られたリンク先には過激な動画が。そこに登場するブラックミックスの男がジャクソンのように見え、本人が否定したにもかかわらずあっと言う間に噂が広がってしまう。そんな幕開きから読者はグイグイとこの物語に引き込まれて行く。

 自ら解決へと動くジャクソン、そこで動画の人物は自分だという3人の男と出会う。彼らが「入れ替わり作戦?」を実行し、それぞれの復讐を果たそうとするという展開がスリリングでおもしろい。差別に対する強い思いを内包している物語だが、ミステリー、復讐譚とエンタテインメント的要素もあり、読者の間口を広げている。

 ユニークな入れ替わり作戦には「褐色」という言葉で一括りにされ、まるで個など存在しないように扱われるブラックミックスのマグマのような怒りが感じられた。「ジャクソンひとり」というタイトルにも同じような思いが込められているような気がする。大団円を経てなんだか不思議な読後感が残る忘れがたい物語だ。  

◆DATA 安堂ホセ「ジャクソンひとり」(河出書房新社) 

 

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)

 

 

 

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