ペルーのイラストレーター、イッサ・ワタナベが描いたセリフのないサイレント絵本。全編、バックは黒だ。最初の見開きに描かれているのは葉も花も実もない裸の木々。暗い森なのかもしれない。その森を捨て、たくさんの動物たちがどこかへ向けて歩き始める。ここには主人公はいない。ライオンや象、熊、ワニなど強そうな動物もいるが、鳥やウサギや豚やカエルと変わらず、トボトボと虚ろな目でなんとか前へ前へと歩こうとしている。
彼らの後を青い大きな鳥が付いていく。くちばしと脚が鮮やかな赤。その鳥にまたがっているのが、着物のようなものを羽織ったガイコツ。これはいったい何の象徴なのか?単純に「死」の象徴と思っていいのだろうか?
旅行鞄や風呂敷やバケツやヤカンを持ち、背中を丸め歩いていく動物たち。途中で休み、木に寄りかかり、寝て…。そんな彼らが坂の下に木で出来た舟を見つけ、駆け出し、飛び乗り。船にぎゅうぎゅう詰めになりながらも海を渡っていく。そして、その途中で…。海のシーンがなんだかすごい。彼らの必死さ、命への希求、そこにあるどうしようもない悲しみが伝わってくる。そして、彼らがたどり着いたのは…。
これは難民の物語だ。付いてくるのは死神だろうか?サイレントだけれど、そこにある黒い静寂と動物たちの表情から彼らの切迫感がヒシヒシと伝わってくる。抱えているのは大きな不安と少しだけの希望が入った古びた旅行鞄だけ。最後の赤く美しい花が印象的だ。イッサ・ワタナベの色鉛筆で描かれた絵は、動物一匹一匹を表情豊かに、細部まで丁寧に描いていて素晴らしい。
◆DATA イッサ・ワタナベ「移動するものたち」(小学館集英社プロダクション)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)