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【書評】絲山秋子「神と黒蟹県」ー舞台は日本のどこにでもあるような地味県、黒蟹。この小説、神も人間もすこぶる愛おしい!


 ううむ、これはすっごくおもしろい!物語の舞台になるのが日本のどこにでもあるような地味県である黒蟹県。架空の場所であるからこその自在さがここにはある。6つの章に分かれているが第1章で語られるある会社の「黒蟹営業所」の人々の話かと思ったのだかそうではなかった。ただし、ここで出てきた人々が他の章にも時々顔を出すので発端としてはうまく機能している。

 6章のうち2・4・6章に神が登場する。今までの絲山作品の神は人間にちょっかいを出すようなカタチで登場していたのだが、今回はタイトルがタイトルだし、やたらと堂々と出てきて驚いた。この小説の神は半知半能、借り物の肉体なので人間のような繊細さがない。直感に頼って生きている世間知らずの「無知なる者」だ。だから、というわけでもないが彼らはなんだか愛しく愛らしい。同時に神が語る彼らにとって「永遠の興味の対象」である「人間」もまた愛おしいのだ。けっこういいぞ「人間」!

 

 1・3・5章では黒蟹に住む人や訪れた人などの様々な話が語られるのだが、仕事の引き継ぎの話だったり、おばさん論だったり、弁当論だったり、恋愛のことだったり、うんちくめいた話がすごくおもしろいし、人間の本質にグイグイと迫っている。黒蟹という架空の土地で作者はなんだか人間を転がしてる感じ。絲山秋子マジックというか本当に自在なのだ。それにしてもこのラスト、なんだかすごいな。あ、忘れてた。架空の県の話なので架空の場所や物や言葉が登場する。それが各章の終わりに「黒蟹辞典」としてまとめられていてとても楽しい。 ◆DATA 絲山秋子「神と黒蟹県」(文藝春秋)

 

 ◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)