ヒコロヒーはな〜んか好き。ちゃんと見てるわけではないけどな〜んかいい。で、これは彼女初の小説集。18のショートストーリーが収録された短編集だ。18編も入っているので、当然一つ一つは短いが、スカスカしていない。結構密度が濃い。それがまずすごい。
ほとんどが女性の一人称で書かれた恋の話だ。最初の一つ二つを読んだ時点ではよくあるような話でそれほどいいとは思わなかった。ところが3つ目の「知らん」あたりからおもしろくなり「翠さんの靴、それ汚すぎやろ」「かわいいなあ、女の子って感じ」で、すでにヒコロヒーワールドが構築され始めている。彼女らしさ、が出ているかどうかが一番大事。あ、このタイトル、すべて物語の中にある会話のフレーズから取られている。こういうの意外とないな。おもしろい。
本になるのは初めてかもしれないが、ヒコロヒーという人はずっと物語を紡いで来た人なのではないか。実際に書いていたのか、心の中で書き続けていたのかは分からないがそんな気がする。非常に書き慣れている感じで、「黙って喋って」を某人気恋愛小説家の短編集と言っても誰も疑ったりしないだろう。端正な文章で瑕疵もほとんどない。何よりもこの物語たちは、女性が恋愛の中で感じる様々な思いをこまやかにすくい取っている。あぁこれ分かる、これ自分だ、と共感する人がたくさんいるはずだ。
個人的に好きなのは、恋人にずっと仲良しの女友達がいる「かわいいなあ、女の子って感じ」、主人公が不倫した男の妻と会う「克則さんって昔からそうなの」、夫との微妙な関係を綴った「紙ストローって誰のために存在してんの」、娘への思いが急にはじける「春香、それで良いのね」。
ヒコロヒー、三人称とかで書き出したらさらにおもしろく、さらにとんでもないことになっちゃうような気がする。次、すごく楽しみ!!
◆DATA ヒコロヒー「黙って喋って」(朝日新聞出版)