5つの物語が収録された短編集だが、そのうちの2編「青田Y字路」と「万屋善次郎」が選ばれ、「楽園」というタイトルで今秋、映画になる。監督は「64-ロクヨン」などの瀬々敬久。選ばれた2つの物語にはつながりがない。それをどうつなげて1本の作品に仕上げるのか、映画もまた楽しみだ。
さて、小説。吉田修一がさすがだと思うのはタイトル通りの犯罪小説5編なのだけど、各々のトーンが微妙に違うこと。その変化が楽しい。「青田Y字路」が北関東連続幼女誘拐殺人事件など下敷きになった犯罪があるのだが、実際の事件をベースにしながらも小説としての奥行きがあるのもさすがだ。描かれているのは犯罪の細部ではない。犯罪を犯したものとその周囲の人々との関係、そして、一人一人の心の襞だ。それをしっかりと描くことによって吉田修一は人と人との間で起こる犯罪のその「核心」へと迫っている。
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