朝日新聞の金曜夕刊に連載されていた新聞小説。「スター」というタイトルから芸能界の話と思う人がいるかもしれないがそうではない。これは映像の世界の話。プロとアマの境界線が曖昧になってスター的な存在がいなくなった今の時代の物語だ。
大学時代に共同監督でぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した尚吾と絋。性格も映像に対する考えも違う2人は卒業後、まったく別の道を選ぶ。鐘ヶ江誠人という有名監督のチームで監督補助になり、映画監督への道を目差す尚吾。一方の絋は、九州の実家に戻ったもののフィルムフェスティバル受賞作の出演者に誘われ、動画作りのために東京に舞い戻りYouTuberになる。質を追い求める尚吾と自ら選んだわけではないが質よりも量的な世界に身を置くことになる絋。
先に注目を集めたのは絋だった。しかしこれは対立の物語ではない。それぞれの世界にそれぞれの問題があり、2人は葛藤を続ける。それは鐘ヶ江監督の迷いや監督補助の前任者だった占部の逡巡、映画のオンラインサロンを作った後輩・泉の独善、憧れのシェフの元で働いている尚吾の恋人・千紗の苦闘などを通しても描かれている。
映像の世界の話ではあるけれど、これはすべてのクリエイターたちの物語だ。創作の現場とそこで働く人々の話なのだ。誰もが感じる迷いと希望がそこにはある。朝井リョウ作家生活10周年記念作品。
DATA◆朝井リョウ「スター」(朝日新聞出版)1600円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
すべての創る人と
創り続ける人へ。
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2020.12.9 旭川や大阪で医療崩壊が起こりつつある。それでもGoToを続ける政府はどう考えてもヘン。海外でワクチン接種は始まったけれどそこに希望はあるのかな??読書はブレイディみかこ「ブロークン・ブリテンに聞け」。
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