少し前に紹介した2冊シリーズの「パラ・スター」。〈Side百花〉に続く後編〈Side 宝良〉を読んだ。前編は車いすメーカーに勤める百花サイドから書かれた話だったが、こちらは車いすテニスプレイヤーである宝良がメインになっている。〈Side百花〉が友情物語ならば、〈Side 宝良〉は成長物語と呼んでいい。もちろん2人の友情はいろいろな出来事を通して深まっていくのだけど、テニスを通したそれぞれの成長に心を揺さぶられる。
冒頭の展開が巧みだ。5年前の事故の描写から始まり、現在の宝良の日常、母と娘の微妙な関係、そして、会社で行われたインタビュー、そこで語られる「選手としての今」、グイグイと物語に引き込まれていく。
2020年の1月、パラリンピックイヤーを迎えた宝良は前年からの絶不調にもがき苦しんでいた。その中で起こる様々な出来事。新コーチ志摩との出会い、新しい車いす作りへの挑戦、海外遠征、〈Side百花〉にも登場した小学生で中途障害者になった佐山みちるとの再会、ライバルたちとの話などなど。そして、世界のトップが集まるジャパンオープンへ。支流である様々なエピソード、そこでの思いが1つになってビッグマッチという大きな流れが作り出されているような感じがある。
3章と4章150ページにも及ぶ試合の描写は、車いすテニスの魅力を伝えるのはもちろんのこと全力で挑む宝良と応援を続ける百花の思い、さらにはライバルたちの気持ちをも熱く伝えている。作者の表現が試合が進むほどに巧みになっていくのもスゴい。準決勝前夜、戦う2人が語り合う。そこで語られる車いすテニスへの思いも感動的だ。
支えるものと支えられるもの、それぞれの成長がそれぞれを助け大きな夢へとつながっていく。〈Side百花〉と〈Side 宝良〉、2つの物語で語られる友情と成長のストーリーをぜひぜひ多くの人に楽しんでもらいたい。
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
2人で一緒に見つめたコートで彼女は戦っている!
あの日のわたしたちに教えたい。
大丈夫、何もおそれず、その道を進んで!
◯「パラ・スター〈Side 百花〉」の書評はこちら!
2021.3.3 首都圏の緊急事態宣言解除は無理。しかし、今のまま続けても減る要素はない。追加の対策はあるのか??読書はマリリン・ロビンソン「ハウスキーピング 」。
【書評ランキングに参加中】
ランキングに参加中。押していただけるとうれしいです。