最初から度肝を抜かれる。主人公であるうーちゃんが湯船で見つけた金魚の赤のイメージ。なんだか恐ろしいような導入部。そして、どこから生まれたのかどこに飛び去っていくのか分からない独特の語り口。その語り口でうーちゃんは自らの心情を語っていくのだ。
「かか」は狂気の中にいる母とその娘の物語だ。娘のうーちゃんは19歳の浪人生。そして、その語りの相手になるのは弟のみっくん。みっくんの存在はなんだかとても曖昧だ。うーちゃんの母親は離婚から心を病み、酒に溺れて激しく暴れる。他の家族はそれを無視できるのだが、うーちゃんはそれができず、母の思いと苦しみを自らのものとして受け入れている。おもしろいのはその語り口からは現代性をあまり感じない物語なのにSNSの鍵アカウントが登場し、彼女がその中で救われているところだ。
うちにこもっていればネットはぬくい、現実よりもほんの少しだけ、
ぬくいんです
という表現が強く印象に残る。
うーちゃんが心情を吐露する中で女性のこと、家族のこと、男と女のことが語られ、それが大きな渦のようになって読む者をのみ込んでいく。
みっくん、うーちゃんはね、かかを産みたかった。かかをに
んしんしたかったんよ
という言葉もどう捉えていいのか放たれた時点ではよく分からないのだが、心の中で渦を巻く。宇佐見りんの言葉は強く何かを刺激する。
かかの手術の前日、なぜか熊野へと向かううーちゃん。そこには何が待ち受けているのか?文藝賞・三島由紀夫賞受賞作品。「推し、燃ゆ」で芥川賞を受賞した宇佐見りん、20歳のデビュー作!すごし!
◆DATA 宇佐見りん「かか」(河出書房新社)1300円(税別)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)
もう一度、新しい母と娘になりたい。
かかを産みたい、育てたい。
◯「かか」は2022年4月に河出文庫で文庫化されました。
◯宇佐見りん「推し、燃ゆ」の書評はこちら
2021.6.30 なんか天気悪いなぁ。ワクチンがあまり効かないラムダ株が怖い。読書は金原ひとみ「アンソーシャルディスタンス」。