これは、アレックスと呼ばれた1匹のヨウム (大型のインコ)と彼を生後1年ぐらいから飼い育て、研究を続けてきたペパーバーグ博士との波乱万丈の30年を博士自身が書いた一冊だ。
50の物の名前、7つの色、5つの形、8までの数を覚え、覚えただけではなくそれらを使いこなし、博士や学生たちとコミュニケーションを取り、時にはわがまま勝手な態度で彼らを困らせたアレックス。彼が死んだ時に「天才」ヨウムの死、とニューヨーク・タイムズは書いたのだが、彼が飛び抜けて優れた天才鳥だったわけではなかった。
この本で書かれている博士の研究は、いわゆる「鳥頭」と言われるような「鳥は高度な認知能力を持てるはずがない」という定説への挑戦であり、「人間だけが明瞭で合理的な言語能力を持っている」という高慢な考え方との戦いでもあったのだ。特に「学会」とか「大学当局」とかいうものはどの国も同じなのだなぁ、と強く感じた。アレックスが人気者になってからも博士の研究はなかなか認められず、経済的にも恵まれたものではなかったのだ。研究と実験のプロセスについてはとてもおもしろいので本を手に取って欲しいのだけど、アレックス、なかなかなヤツだなぁ。最初とラスト近くで書かれる彼の死と博士との別れのシーンはやはり胸が熱くなってくる。
これ、それなりのストーリーテラーが書いたならばもっとおもしろく感動的な物語になったように思う。しかし、博士自らが書いたことでリアルさは増し、いろいろな人々にとって大切な一冊になったのではないか。巻末に貴重な著者インタビュー、訳者あとがきなどが収録されている。
◆DATA アイリーン・M・ペパーバーグ「アレックスと私」(ハヤカワノンフィクション文庫)860円(税別)
2021.10.14 なんだか急に寒くなってきたな。コロナ、まだ減るのか?読書はブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」。