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【書評】永井みみ「ミシンと金魚」ーすばる文学賞受賞作!認知症のカケイが語るその人生。湿度の低いユーモアのある物言いが辛い一生の物語を救っている

 

 すばる文学賞受賞作。いやいやいやこれはスゴイぞ。2月発売だから上期の芥川賞候補に入るのかな?「すばる」で先に発表されてるからダメなのかな?入ったら絶対に取るぞ、これは。帯で金原ひとみと川上未映子が絶賛してる。と、書いてたら今日発表になった三島由紀夫賞にノミネート!さて、どうだ?

 主人公の老婆カケイは認知症を患いヘルパーの「みっちゃん」たちの助けを借りながら日々生きている。冒頭で描かれる病院の待合室の場面、のべつまくなし話し続けるカケイのその語り、その饒舌さに一気に心を奪われる。病院の帰り「みっちゃん」の一人から「カケイさんは、今までの人生をふり返って、しあわせでしたか?」と聞かれ、そこから自分語りの「昔語り」が始まる。

 そこで語られる彼女の人生は凄まじい。カケイを産んですぐに死んだ母、継母からは薪で叩かれ、兄貴と犬に育てられ、ほとんど学校にも行かせてもらえず。パチンコで借金まみれの男の借金のカタとして結婚し、お金のためにミシンを踏み続け、最後には夫の連れ子と…。凄まじいのだが、なんだか不思議な柔らかさを感じるのはその語り口が独特だからだ。「あい」「わかりましぇん」「ありがとうごじゃいました」などというカケイの話し言葉たち。湿度の低いユーモアのある物言いがその辛い一生の物語を救っている。「みっちゃん」たちや嫁とのやり取りなど、ちょっとシニカルな「今語り」とのバランスも絶妙だ。

 後半、カケイが産んだ道子という子供の話になるのだが、これは本当にもう辛い。辛くて辛くて辛すぎる。道子を愛した兄貴の話、兄貴の女だった広瀬のばーさんの話、カケイ自身の思いなどなどすべてが辛くせつない。たまらないなぁ。ほんとになぁ。でも…。でも、ここには安田カケイという女性の「一瞬のしあわせ」があったのだ。ラストの「手の中の花」が印象的!!ぜひ! ◆DATA 永井みみ「ミシンと金魚」(集英社)1400円(税別)

◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピーです)

 

 

 

 

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