シドニー・スミスはこのブログでも何度か紹介したカナダ生まれの絵本作家。他の作家の物語に絵を描くこともあるが、自分で絵と文、両方を手がけてもいる。この「ねぇ、おぼえてる?」は自らの子供時代の体験を3年がかりで描いたという労作で、絵と文どちらも彼のものだ。
で、これ、間違いなく傑作だ。「このまちのどこかに」もすごくよかったけれど、この作品もそれに勝るとも劣らない素晴らしさ。作り自体はとてもシンプルだ。寝る前、ベッドの中で母とまだそんなには大きくない男の子が話をしてる。「ねぇ、おぼえてる?」の問いかけ。まず母が、そして、息子が。2人の思い出が絵と文で語られる。野原での父と母と息子、3人でのピクニック。初めて自転車に乗った日のこと。嵐の夜の出来事…。いろいろな思い出を描くシドニー・スミスの水彩の優しいタッチがいい。
最後の「ねぇ、おぼえてる?」で、この母と子には事情があることが分かる。彼らは今、今まで暮らしていた土地を遠く離れ、父とも別れ、新しい部屋で最初の夜を迎えているのだ。これはそのベッドで語られる2人の会話だったのだ。そして、夜が明け最初の朝がやってくる。街の上にも太陽が昇る。「このことも、いつか思い出にできるかな」と窓辺に立ちつぶやく男の子。母親はまだベッドで静かに眠っている、再びそこに潜り込む男の子の手には思い出のぬいぐるみが。美しい朝の光が2人を包む。母子で歩むこれからの人生を祝福するように。
◆DATA シドニー・スミス「ねぇ、おぼえてる?」(偕成社)
◯勝手に帯コピー(僕が考えた帯のコピー、引用も)
◇シドニー・スミス、その他の絵本の書評などはこちら。
◇特にこれは読んで欲しいです。「このまちのどこかに」!
2024.5.20 月曜日、この頃東京は雨ばかり読書は片岡義男ほか「シティポップ短篇集」。